恥の多い生涯を送って来ました。

生き辛い私が日々感じることを残していきたいと思います。

僕が僕であるために

拝啓、恵子ちゃん。

4年間暮らした港町に別れを告げて、我が故郷、彩の国へ帰ってきました。大通りに面した借家の窓から道路を見下ろすと絶え間なく車が流れていくのを確認できます。この鼻を突く排気ガスの臭いに僕はいつか慣れるのかな。

僕達の生まれる遥か昔、此処にも雄大な自然があったと聞きます。

然し、花の都大東京へ出稼ぎに行く多くの労働者を収容するため、山々は切り崩され、海は埋め立てられました。それが関東平野の由来です。だからこの見渡す限り真っ平らな地平線は悲しみの象徴なわけで。

嘘です。恵子ちゃん、僕は今、嘘をつきました。ごめんなさい。

でも彩の国へ帰ってきたことは本当です。

 

4年に及ぶ港町での移住生活の前、確かに僕は此処に住んでいたんだけど、港町とは異なる環境に戸惑う毎日です。綺麗に区画整理された土地に行儀よく人工物が整列する街並み。その背景には目印になる山が無いので容易に方向感覚を失います。そしてなにより外を出歩く人の数の多さに驚きます。調べてみたら186km²の土地に19万人が住んでいる港町に対して、此処は61km²の土地に57万人が住んでいるようです。それは空気も薄く、息苦しいわけです。

とはいえそれだけ人が多ければ自ずとスーパーやコンビニ、飲食店の数も多くなります。利便性が高いのは間違いありません。今は時間が有り余っているから毎日自炊ができているけど、これから会社勤めが始まればその恩恵を大いに享受することでしょう。

だから今は辛抱の時です。少しずつ新しい環境に適応していきたいと思います。僕は過去を振り返らず、この街で生きてゆかなくてはなりません。

僕が僕であるために