恥の多い生涯を送って来ました。

生き辛い私が日々感じることを残していきたいと思います。

根拠のない自信

下調べもせずに居酒屋に入れば、時には外れを引くこともあります。

たまの休日、伊豆で温泉を満喫した後の私は酒が飲みたくなりました。

然し、この伊豆半島の先端にも近い集落には飲食店が数えるほどしか無く、灯りがついていれば御の字でしたので、ろくに下調べもせず、一番先に目に留まった店にお邪魔することにしました。

表のメニューからして海鮮推し、一応は期待に胸を膨らませて引き戸を開けたのですが、その先には飯時だというのに店主が一人、ポツンと佇んでいるだけなのでした。

明日からは忙しくなる予定だという前向きな店主。彼の振る舞う刺身は閑古鳥が鳴く店の実情をよく表していました。色の抜けたマグロ、食感の無い鯛、生臭いカンパチ。いずれもスーパーで買うものと何ら遜色ない質でした。それでも「うちは近くの海で上がったものを地元の漁師から卸してもらっているもんで、美味いでしょ」と店主は自分の出す料理にやたらと自信を持っているのです。その自信はいったいどこから湧いてくるのでしょう。全く常連客がつく気配の無いこの語り部屋を、今日も一人で切り盛りする私にとって、店主の姿勢は、まるで自分を映す鏡のようで複雑な気分になりました。

ただ、私と店主では趣味と生業の違いがありますので、別にこの語り部屋が流行らなくても私は生きていけます。そればかりか、これまで以上に強く生きていけるようになるのではないかと信じているのです。

今、私に芽生えたこの根拠のない自信こそが、その前兆です。